TVドラマ(月10)「転職の魔王様」第9話は、転職エージェント「シェパード・キャリア」の社長、落合洋子(石田ゆり子)さんの回といっていいでしょう。(元)恋人・五十嵐君雄(金子ノブアキ)さんを巡り、転職の魔王様、来栖嵐(成田凌)と未谷千晴(小芝風花)、そして社員みんなが力を合わせて見せ場をつくります。社会問題「8050問題」に通じる重いテーマでしたが、最後にとても感動的なシーンが用意されていました。
第9話を私はキャリアコンサルタントとしてではなく、一人の視聴者として観たいと思いました。物語には人を動かすチカラが時としてあります。この第9話はそんな物語でした。
今回のゲスト求職者は、43歳の元小学校教師、五十嵐君雄(いがらし・きみお)さん。周囲に何も語らず突然教職を辞し、10年間自室に籠った状態が続いています。恋人の洋子さんにも心を閉ざしたままです。
第9話のタイトルは「ひきこもりに生産性がないなんて誰が決めたんですか」。
私もキャリアカウンセラーとして“ひきこもり”の状態から社会復帰を目指そうとしている方々との面談をしてきました。第9話で転職の天使様・天間(白洲迅)が未谷とパフェを食べながら語る例え話に、とても含蓄がありました。
「焦ることはないんじゃないですか?このパフェだって、下に入っているソースにすぐにはたどり着けませんよ。まずは焦らず、まわりから少しずつ。ですよ」
結論からいえば、洋子社長の願いがすべてです。
「私、信じたいんです。たとえ心や身体に傷を負ったとしてももう一度社会で活躍できるって」。
かつて夢も希望も失った来栖が転職のために初めて「シェパード・キャリア」を訪問した時、来栖の心を捉えたのもこの洋子社長の言葉でした。洋子社長が起業したのも転職エージェントの仕事に誇りを持っているのも、全てこの言葉に表された思いが支えているのです。
転職の魔王様・来栖嵐が、毎回水戸黄門の御印籠よろしく決め台詞「貴方の人生、このままでいいんですか?」を発しますが、今回は、来栖の恩人、洋子社長に対してでした。洋子社長が報われなかった10年間を思い、あきらめかけそうになっていたその時に・・・。
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10年前に、小学校6年生の担任をしていた五十嵐さんはいじめで不登校になってしまった教え子にこう諭しました。「学校だけが居場所じゃない。どんな形でもいいから、人とつながることを諦めないでほしい」
教え子を救えなかった責任は自分にある・・・そんな自責の念から10年間、自室にこもっていた五十嵐さんでしたが、10年後、成長したかつての教え子の発した言葉に心震わせました。
社会復帰することができた教え子はこう述べました。「僕が外にでられたのは、あのときの先生の言葉があったからです」
「どんな形でもいいから、人とつながることを諦めないでほしい」
10年前に発した五十嵐さんの言葉は、教え子の心の中に道しるべとなって生きていたのです。自分の発した言葉は空しく消えていったのではありませんでした。さらに今度は未来へと自分自身を変えていくチカラにもなっていきます。
来栖もまた五十嵐さんに対して繰り返しました。
「どんな形でもいいから、人とつながることを諦めないでください」と。
10年を経た五十嵐さんは、もう一度社会復帰を決意しました。
10年という時空を越えて架けられた橋は「言葉」でした。人と人とに架けられる橋はきっと「言葉」なのでしょうね。
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このシーンをみていて、私の中に何十年前かの記憶が甦ってきました。小学校か中学校の教科書の中の詩の一節の記憶です。「ワーズワース」の詩で、言葉を巡る詩でした。手がかりは「矢」arrowのみ。番組を観終わってからChatGPTに幾つもの質問をしてみました。しかしその晩はとうとうその詩にはたどり着けませんでした。
翌朝、今度はMicrosoftのBingに幾つもの質問をしてみました。そして最後の最後に、ついにその詩を突き止めることができました。
「The Arrow and the Song」というタイトルで、ヘンリー・ワーズワース・ロングフェローの詩でした。
The Arrow and the Song BY HENRY WADSWORTH LONGFELLOW
I shot an arrow into the air,
(空に矢を放った)
It fell to earth, I knew not where;
(それは地に落ちた どこに落ちたかわからなかった)
For, so swiftly it flew, the sight
(なぜなら それはあまりにも速く飛んだので 目は
Could not follow it in its flight.
それを追うことができなかった)
I breathed a song into the air,
(空に歌を吹き込んだ)
It fell to earth, I knew not where;
(それは地に落ちた どこに落ちたかわからなかった)
For who has sight so keen and strong,
(なぜなら 誰がそんなに鋭く強い視力を持っているだろう?)
That it can follow the flight of song?
(歌の飛ぶのを追うことができようか?)
Long, long afterward, in an oak
(長い長い後に 樫の樹に)
I found the arrow, still unbroke;
(私は矢を見つけた まだ折れていなかった)
And the song, from beginning to end,
(そして歌は 初めから終わりまで)
I found again in the heart of a friend.
(私は再び友の心の中に見つけた)
私は第9話を観ることによって、忘れかけていた詩の一節を思い出したのでした。手がかりは詩人名「ワーズワース」と「矢」という言葉。何十年かの時を越えて、生成AIのチカラをかりて、その詩に再会することができました。
(ちなみにChatGPTではイギリス詩人ワーズワースで質問を始め、ウィリアム・ワーズワースを生成AIは調べてくれました。お目当ての詩はヘンリー・ワーズワース(アメリカ)のもので、MicrosoftのBingで「ワーズワース」「arrow」でたどり着けた経緯があります)
究極のところ、洋子社長の云う通り、「人の気持ちを動かすのは、やっぱり人」なのだと思います。未谷は「私たちキャリアアドバイザーの原点は人に寄り添うことなので」といいました。未谷もキャリアアドバイザーとしてもう一人前と呼べるでしょう。人に寄り添うということは、善意と希望によって支えられていると私は考えています。
さてさて、第9話の終わりで気になる予告がされました。「物語は最終章へ!嵐が転勤?千晴に危機!」。
次週第10話では、どのようなドラマ展開になるのでしょう?とても楽しみです。