TVドラマ(月10)「転職の魔王様」第3話では、転職の魔王様・来栖嵐(成田凌)、未谷千晴(小芝風花)コンビでは初めての、来栖が未谷をほめるシーンがあります。来栖の前職での挫折経験も語られ興味深い回になりました。そして酷い上司に耐える笹川直哉(ささがわ・なおや/渡邊圭祐好演)さんの姿は、20代の人に特に共感を呼ぶのではないでしょうか。
今回のゲスト、笹川さんは25歳。新卒で大手食品会社・きさらぎフーズに入社し現在4年目。健康食品部門の営業マンです。来栖と未谷の面談で語られる転職理由として「今の仕事はやりがいもあるし、好きなんです。ただ・・・職場の評価制度に不満があり、自分の仕事が適切に評価されていない気がして・・・」と力なく話します。
実にナイスガイです。明るく人当たりがよく周囲に対する配慮が行き届いている感じがします。彼の転職に踏み切ろうとする気持ちの裏に本当はどんな思いがあるのでしょう?第3話のタイトルは来栖の言葉で「とりあえず3年はもはや死語です」というものです。本当に「とりあえず3年」はもはや死語なのでしょうか?
●「とりあえず3年」に意味はないか?
●自己評価は思うより難しいもの。
●自分の転職理由を見極めるには?
それではみていきましょう。
よくいわれる「とりあえず入社3年」。本当に死語なのでしょうか?
私はキャリアカウンセラーの立場というよりも人間として、25歳の笹川さんの姿、彼の振舞い方に感動しました。自分が25歳であった頃のこと、20代の後半に仕事していた頃のことを、いろいろと思い出しました。私の知る限りにおいて、彼は最良の25歳だと感じています。
ここでは笹川さんの転職理由が明らかになっていくプロセスをみていきたいと思います。
明確な転職動機を自覚することは、自分のことでありながらとても難しい側面があります。年収アップ目的ならば単純明快ですが、笹川さんの場合は違います。つまり自分の潜在意識の中にある動機を探ること、言語化していくことは実は難しい作業です。
しかし自分の思いを知る作業は、求める未来、自分の幸せを掴むためにとても重要です。
笹川さんは、4年目を迎えて、自分の成長がみえなくなってしまったようです。しかしそれは無理もないです。人間は集団の中で活動する社会的存在です。集団の中で自分の位置を見極めようとします。それなのに直属の上司から繰返し繰返し罵倒され、どうやって客観的な社会的評価を掴むことができるでしょう?
上司の仕事について考えてみましょう。上司は部下を監督する責任と義務を負っています。監督というのは、部下の資質を伸ばし、その成長を促し、仕事におけるパフォーマンスを高めることではないかと思います。笹川さんの上司、部長の西田はそれを果たしているでしょうか?
本人の自己評価というものは実は相対的なものです。評価という以上、誰かの評価の影響を受けているのです。自分の思いは努めて自分で把握すべきですが、そこに第三者の評価が加わることによって、やっとみえてくるものでもあるのですね。
ここでは来栖と未谷がその役割を担います。キャリアカウンセラーの担える重要な役割でもあります。
まず最初に、笹川さんの上司、部長の西田を、じっくり観察してみましょう。
一言でいえば上司の西田は、実に酷い・・・。なぜならば、自分本位で絶えず部下を叱責する不機嫌な男だからです。尊敬に値しない人物です。
苦しい思いを抱えながらも、笹川さんは仕事を続けて4年目になりました。本当は、すぐに辞めてしまう道もあったのだと思います。しかし「とりあえず3年」という言葉があって、彼は耐えてきました。
そんな笹川さんを、もう一度観察してみましょう。
上司に受けのいい人物を演じていると来栖は言います。「仮面」をつけているとも評しました。しかしそれはこの厳しい環境を彼なりに生き延びるためには必要なことではなかったでしょうか?
笹川さんは最初、自分の評価すべき点は「この明るく前向きな性格」だけ、と言いました。はたしてそうでしょうか?
「この3年間、何してたんだか・・・。俺の3年間は、何もなかった。仮面をかぶって」「仕事で誇れるものなんて何もないですから・・・」。とても自己評価が下がっています。そんな彼は同期たちが会社を辞めてそれぞれの居場所をつくっていることを知り、動揺します。
ドラマの中でやがて笹川さんの本領を発揮する場面が訪れます。彼には投げ出さない責任感があることを、来栖は発見しました。
他部署の人々を徹夜で支援する笹川さんの姿をみて、「あなたが培った大きな強みです。あなたが過ごした3年間は、無駄な時間ではなかったようですね」と彼に告げます。
来栖と未谷の係わりによって、笹川さんは自分軸を取り戻していきました。そして彼自身も確認できたことがありました。
徹夜明けで他部署の人から、こんな声をかけられました。「俺たち、お前の頼みじゃなかったらやらなかったよ」と。
そんな彼に来栖は、ある食品会社を薦めます。社員を多角的に評価して成長させる会社「クックエナジー」・・・。笹川さんの転職の動機が言語化される瞬間がきます。
「人を大事にする、尊敬する上司のもとで働きたい」。
自分の強みは自分でも気づきにくいもの。だからこそ、しっかり自分と向き合う必要がある。そう来栖は未谷に言います。そしてそこで、来栖は未谷を初めてほめました。求職者に寄り添って自分事のように考えられる未谷を。
入社3年で、陥りやすい罠は3つ考えられます。
❶短期的・短絡的に自己評価しがちな傾向。
❷同年代の人と比較しがちな傾向。
❸会社での好評価を得ようとしがちな傾向。
がんばるのはいいことです。しかし今の自分が何(誰)を目標にしてがんばるのかをはっきりさせた方がいいでしょう。ロールモデルといいますか、自分はこんな人になりたいという目標を中長期的な視点にたって考えることも大切に思います。
自分の夢はなんなのか?仕事で何を目標にしていくか?笹川さんの考えることは、実はたくさんあります。そのようなことを働きながら考えていくことがこれからの彼には大切です。
笹川さんは、きっと新しい会社で、周囲から信頼されて働いていくことでしょう。そして大きく成長していくことでしょう。
一方、上司の西川は失ってはならない部下を失いました。それは会社として前途有為な人材を失わせたと周囲はみます。おそらく会社は、遠からず西川の管理能力にNGを出すことでしょう。
会社にとって有害な管理職に対して組織は厳しく報います。いずれ西川はひとりで仕事するポジションへと異動させられることでしょう。それが西川の長きにわたって磨いたキャリアの終着点なのです。
笹川さんが最後に退職願を提出し、今までの感謝を述べるシーンは、技あり!でした。彼は最後まで怒りという感情を人にぶつけない人物でした。
原作の「転職の魔王様」(第三話)では、「転職は口コミサイトで店を選ぶのとは違うんです」というタイトルがつけられています。人の評価ではなくて、自分の評価で物事を判断するようにしましょう。そんな意味が込められているようです。
さて、転職の魔王様:第3話から転職についての学びを簡単に整理しますと3点あります。
❶「とりあえず3年」一つの組織で学ぶことは無駄ではない。
❷自己評価はその時々の心象によって左右される傾向がある。
❸転職理由は他者の意見にも耳を傾けて、言語化してみる。
さて、転職の魔王様、次は、どのような転職のドラマをみせてくれるでしょうか?