「転機」のプロセスには「何かが終わる」「ニュートラルゾーン」「新たな何かが始まる」の3段階があることをお話してきました。
ここでは「新たな何かが始まる」を少し深く見つめてみたいと思います。
ところで私は何故、この「転機」のプロセスに興味があるのでしょうか?
実は、今私は自分自身の「転機」を乗り越えようとしているからなのかもしれません。
この春のある日、突然自分たちの組織が消滅しました。
そこで共に支えあってきた仲間たちが一瞬にして失業してしまうという経験。私たちを信頼してくれた上司たちもまた辛い経験の中にいるのをみました。毎日向かうべき職場が一瞬にしてなくなる経験。さあて、どうしていったものか・・・。
キャリアコンサルタントの経験から、私の前に相談にこられるクライエントの方々はおおよそ「転機」の只中におられます。自分自身も七回も転職してきて、「転機」の荒波に翻弄されてきました。一言でいえば「居心地のよくない」経験でしょう。
日常的に「転機」の人々と共にある自分は、いつしかそれが常態となり、そんな「居心地のよくない」状態に適応しやすい人間になっていたかもしれません。「転機」を考え続きてきたのは、そのせいなのかもしれません。
今回、周囲の人々の不安や混乱がよく見通せるようになっていることがわかりました。自分が担当しているクライエントの不安や混乱もまたよく見通せる自分がいました。
そのとき私がしたことは、「いつもとかわらない自分」を生きようとしていました。
それと、「少しでも穏やかな心で周囲に接したい」と試みていたことでした。人の痛みがはっきり見える自分がそこにはいました。自分の痛みや混乱よりも気遣う仲間やクライエントをどうしていけばいいのかを考え始めている自分がいました。しかしできることは限られていました。
できたことはわずかです。
「穏やかな心を持ち続けようとしたこと」。そして「笑顔を失わないようにすること」・・・。
そうやって人々は別れ、それぞれの道へと向かっていきました。私もまた自分の道を歩み始めています。このように自分のブログ『転機の技法』に記事を書くなどして。
「転機」という捉えどころのない内的体験の事柄を学んでいって、本当に良かったと思うのは、人生には翻弄されてみて初めてみえる風景があることを知ったことです。学んでも学んでもわからないことだらけですが、一つだけ言えることは、運命が自分に与えてくれたギフトーそれが「転機」だということです。
それでは、「転機」の終わりをみていきましょう。
内的体験を経て、新しい何かが始まる時です。
ここで、ウィリアム・ブリッジズの「トランジション 人生の転機を活かすために」の第7章「新たな何かが始まる」をMindMapに整理しましたので、ご覧になってみてください。
「ニュートラルゾーン」ではカオスのように先がみえないまま、あるときには混乱と不安と痛みで苦しい時期を過ごします。
この苦しさには、しかし内的体験として自分を成長させる生みの苦しみのような働きがありました。要領よく「苦しさ」を回避できる手段があるかは私にはわかりません。しかし自分の状況を客観的に見守る眼差しがあるならば、この苦しい時期の過ごし方もまたみえてくるはずです。苦しさを軽減する手段というものは、必ずあるのです。
例えば数日間旅をしてみる、とか。
ひとりになって本を読んだり自然の中に身をゆだねるなど。
古代の人々が通過儀礼で「荒野」を目指したことをご存じでしょうか?
「荒野」には「聖地」という意味もあるのだそうです。
今までの自分の方法論が役立たなくなってしまい、どうしていいかわからない時期を一定期間すごす先に、「新たな何かが始まる」時が訪れます。
「始まり」を知らせるヒントは、「何かが違うな」という微妙な変化であるようです。(p230:引用)
内的なセンサーは鋭敏にそれに気づきます。
「ニュートラルゾーン」で徹底して無為であったころ、内面ではエネルギーが静かに蓄えられ、同時に本当の自分が望んでいる何かが無意識の中で明滅してきたりします。そしてエネルギーが充分蓄えられた時に、再生が生じるのです。
本当の自分の思いに素直に従って行動をおこす時がきました。
そんな時、自分をひきとめようとする力も発動するようです。
ウィリアム・ブリッジズはそれをan inner warning systemと名付けました。
「内的警戒システム」。昔の自分が変化をやめさせようとする働きです。人間は保守的な存在です。変化を嫌うのです。
それでも、人は新たな何かを始めていきます。
ここでブリッジズは、こんな提案をします。
「あまり準備せずに行動する」。そして「その結果を確認する」ことです。(p244:引用)
そして「一歩ずつ、なすべきことを進める」(p247:引用)
そう勧めるのです。
目標よりもプロセスを重視していきましょう。
「自分や他人に対して優しくし、気分を楽にするようなちょとした支えや休息を大切に」(p249:引用)
そんなことを勧めています。
親しい友人とランチをともにしたりしませんか?
家族にケーキを買って帰ってみませんか?
季節は移り、木々の緑は新緑から濃緑にかわり、爽やかな風がそよぐ様を想像してみてください。
あなたの新しい人生がはじまったのです。
あなたの知らない内に。あの厳しかった冬は去ったのです。