(まだこの映画をご覧になっておられない方は、映画をご覧になってから読み進めてくださるようお願いします)
映画「ショーシャンクの空に」では、30歳から49歳までのアンディー・デュフレーンが描かれています。
冒頭の法廷シーンを除けば、物語は、アンディーの親友レッド(モーガン・フリーマン)によって全編語られます。
レッドが語るアンディーの物語を観客の私たちが共有する形式なので、アンディーを好ましく思う観客としては、レッドは私たち友人の代表といえるでしょう。
映画の終盤で、アンディーが脱獄した後、ショーシャンク刑務所に残されたレッドの言葉は印象的です。
Sometimes it makes me sad, though, Andy being gone. I have to remind myself that some birds aren’t meant to be caged. Their feathers are just too bright…
(だが、ときどき悲しくなるんだ、アンディーが行ってしまったのが。かごに閉じ込めておけない鳥もいるということを自分に言い聞かせなければいけなくなる。彼らの羽はまぶしすぎるのだ・・・)
私もまたレッドと同じ思いです。
ここで、ショーシャンク刑務所で19年生きたアンディーの軌跡を反芻してみたいと思います。
私が試みたいのは、彼のキャリアを鳥瞰してみることです。
若きデュフレーン氏(Andrew Dufresne)。
彼の人生は、30歳のときに終わりを告げました。
妻とその愛人を殺害したという罪で終身刑が下されました。これは冤罪ですが、この不運によって、アンディは収監され、全てを失いました。彼のキャリアもまた閉ざされたのです。
30歳にしてメイン州ポートランドの大銀行の副頭取(vice-president of a large Portland bank)であったアンディーは、さぞかし優秀な銀行マンであったことでしょう。しかし職業人生はそこで途絶えました。まったくの不運(Bad luck)によって。職業人生のみならず、人間としての自由も剥奪されました。
そんなアンディーですが、脱獄するまでの19年間、彼はキャリアを奪われた訳ではありません。
アンディーの優秀な銀行家としての職業能力は健在でした。銀行家としての知識・技能・経験は、ショーシャンク刑務所の中で活かされることになりました。
残忍なハドリー看守長の遺産相続35,000ドルについて、相続税を合法的にゼロにできることを告げ、その書類作成を行うことになりました。
やがて、ノートン刑務所所長をはじめ、周辺の刑務所刑務官全員の確定申告の書類作成まで頼まれてするようになりました。
看守のひとりは子供の教育費に関する有利な投資計画(financial planning)について、アンディーに相談しました。見事に助言するアンディーは銀行員そのものでした。
これらは全て無料奉仕でした。
しかし結果としてその見返りに、暴力の支配する刑務所の中で刑務官に守られるという特権を手に入れたのです。
彼の職業的才能は刑務所の中で、彼の身を守りました。
刑務所の中で、アンディーは主にふたつの自分自身のプロジェクトに熱心に取り組みました。
ひとつは図書館をつくること。
もうひとつは教育することでした。
10年かけて、アンディーは州議会に手紙を送り続けました。1959年には州議会の歳出委員会は年間500ドルの図書予算の歳出を認めました。最初の6年間は週一回、それ以降4年間は週二回、州議会に手紙を送ったアンディー。
ざっと400通以上の手紙を、10年間書き続けたことになります。そしてついに1963年、刑務所内にブルックス・ハトレン記念図書館を開くまでになりました。
その図書館を舞台にして、受刑者10人以上に高校卒業資格をとる手助けをしました。
ソーシャルベンチャーを立ち上げる社会起業家(social entrepreneur)としての一面をアンディーは示しました。
一方で、ショーシャンク刑務所のノートン所長の金庫番を務めることにもなりました。長きにわたり悪徳所長の指示のもと、マネーロンダリングの手伝いをさせられました。
恐るべし!アンディー・デュフレーン。
このような彼のキャリアは、職務経歴書に記載せずにはいられない内容です。
そして、もうひとつの最大のプロジェクトを、彼はひとりで進めていました。誰も知ることのない彼ひとりのマイ・プロジェクト。
19年かけて準備しそれを実行しました。
脱獄です。
脱獄したアンディーを回想して、レッドはつぶやきます。
Geology is the study of pressure and time. That’s all it takes, really. Pressure and time.
地質学が好きだった彼をレッドは想いながらー
(地質学は圧力と時間の学問だ。実際、それがすべてなのだ。圧力と時間が)
おそらくアンディーは「時間」を味方につけられる人物でしょう。
彼は見事脱獄に成功しましたが、脱獄に成功するだけではなく、脱獄後の自分自身のファイナンシャル・プランニングも着々と実行しておりました。
映画の最後は青い太平洋の海辺です。そのジワタネホの海で、古いボートを整備しているアンディーをみることができます。
私の想像ですが、ジワタネホで廃業したホテルか古民家を安価に手に入れて、彼は希望通りそこで小さなホテルを開業したのでしょう。そして人を雇う立場、実業家としてのアンディーが姿を表しました。
銀行家から社会起業家へ。そして実業家へ。
アンディー・デュフレーンは、生涯かけて自分のキャリアを発達させてきた男です。
終盤で仮出所したレッドに、アンディーは手紙を通じて語りかけます。
Remember, Red. Hope is a good thing, maybe the best of things, and no good thing ever dies.
(忘れないでくれ、レッド。希望は良いもの、多分最上のものだ。そして、良いものは決して消えることがない)
アンディー・デュフレーンが、レッドと共に私たちに語りかけた言葉です。忘れないでくれ、と。
彼にとって「希望」とは、他人から与えられるものではなく、自らの心の中で時間をかけて育むものでした。
最後になりますが、アンディーの職務経歴書には、そっと次の言葉を添えたいと思います。
人柄 : 静かな雰囲気:a quiet way
趣味 : 鉱物コレクター:a rockhound
得意分野: 地質学:Geology
(出典/台詞と翻訳文:『映画で覚える英会話 ショーシャンクの空に』:発行所:株式会社アルク)