『THINK FUTURE 「未来」から逆算する生き方』(東洋経済新報社/9月)からヒントを得たいと思いました。クライエントの「未来」に関わる上で、つまりライフキャリアの開発において、「これからの人生」を具体的に捉えていく必要に迫られていたからです。著者はUCLAアンダーソン・スクール・オブ・マネジメントのハル・ハーシュフィールド教授(心理学)。この著書のエッセンスについて記そうと思います。
本の原題は「YOUR FUTURE SELF: How to Make Tomorrow Better Today」です。 日本語にすると「未来のあなた:どのようにして今日よりも良い明日をつくるか」です。
エッセンスとなる概念は《未来の自分と今の自分を意識的につなげること。他人のように感じているのではなく、それは自分だと思えるよう工夫すること》です。これを豊富な心理学的実験を通じて明らかにします。
ほとんどの人は、未来の自分を、ほぼ他人と同じように認識しているのだそうです。人は他人に対しては無関心でいられます。目の前のチョコレートを「美味しそう」と感じれば、むしゃむしゃ食べてしまう。未来の自分が肥満で健康を損なってしまっても、他人事なので意に介さない・・・まさにそうかもしれません。
「未来の自分」を「今の自分」とつなげて認識できるようにします。そうすれば望む「未来の自分」に相応しい行動を「今の自分」は選択しやすくなります。
例えば「今の自分」が20年後の未来の自分をイメージし、その20年後の自分に宛てた手紙を書いてみます。
あるいは自分の20年後の顔を『老け顔アプリ』で視覚化し、20年後の自分に好意的な関心を持ち続けながら、今の自分が今できることを行います。
要約すると、20年後の自分と今の自分が対話し続ける仕組みをつくれ、ということです。
これは充分に試してみる価値がありそうですね。
□
私自身の経験として「未来の自分」と「今の自分」が意識的につながった出来事について、記そうと思います。
十数年前のことです。あるコーチングの研修をしているときに、研修のプログラムに「未来の自分」をイメージするワークがありました。その私のイメージした世界のことは、十数年経っても鮮明に記憶しています。その頃の私は失業していて、どのようにそこから這い上がっていけるのか、まったくわからない辛い時を過ごしていました。
「未来の自分」をイメージするために意識を集中していくと、ある光景が浮かんできました。
そこは書斎でした。壁一面に蔵書がたくわえられています。そしてそこには重厚なデスクがありました。ライティングデスクではなく、書斎の中心に置かれている存在感あるマホガニーの重厚なデスクでした。
その大きなデスクに、20年後の未来の自分は、座っていました。
蔵書の壁を背にして座っている20年後の私は、私の姿を認めると、書く手を休めました。穏やかな笑顔を浮かべ、私を招くようなしぐさをしつつ、ゆっくり立ち上がりました。
私は、静かに彼に近寄りました。
スーツを着ている白髪の紳士は、穏やかな笑みをたたえて、私を見詰めています。
もっと近づくようにとジェスチャーで促し、ほぼ数十cmのところまで私は歩み寄りました。
私と同じくらいの身長でしたが、私には大きく見えました。太ってはおらず、すらっとしたイギリス風の紳士でした。
黙って向き合って目と目をあわせていました。言葉のやりとりはなく、彼の顔には穏やかな笑みが浮かんでいました。
次の瞬間、ふわっとそのジェントルマンは私を抱きしめました。
すべてをわかっていて、そのときの苦しい私をすべて受け入れてくれるような優しさで・・・。
私はその20年後の未来の自分を、鮮明に覚えています。
「知性」と「寛容さ」を備え、おそらくどのようなことでも受容できる大人の男性です。
20年後の自分に、少しずつ今の自分は近づいてきているのかもしれません。近づいていけたらいいのですが・・・。
■
この本には思考が現在・過去・未来へと数秒間で行き来する「メンタルタイムトラベル」について語られます。
冒頭に載せたフランス映画「ラ・ジュテ」(1962/監督クリス・マルケル)はタイムトラベラーのお話です。わずか28分のこのSF映画は幾多の映画に影響を与え、ハリウッド映画「12モンキーズ」(1995)の原案にもなりました。
「未来のあなた」と「過去のあなた」がつながっている感覚を、この映画は魔法のようにみせてくれます。
現在・過去・未来を往還する中に、人生の真実があるというかのように。