『ライフ・シフト』リンダ・グラットン氏 生成AIとキャリアの今後

2024年9月18日(水)から三日間に渡って行われたクーリエ・ジャポン主催「クーリエ・ジャポンEXPO2024」で、『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』の著者のひとり、リンダ・グラットンさんのオンライン対談を観ることができました。

「人生100年時代」を生きる私たちはどのようなキャリアを築くべきか 

この対談テーマのもとに、著作家・山口周氏が質問し、それにリンダ・グラットンさんが答える形式で、40分間オンライン対談を拝聴しました。とても興味深いものでした。リンダ・グラットンさんは、言うまでもなくロンドン・ビジネス・スクール教授で、日本にも多くの読者がいます。

今回の対談では、特に生成AIとキャリアについて、最新の知見が語られました。

手元に残したメモを要約し、ここに記しておきたいと思います。

(私の英語力の未熟さによる誤表現がないよう努めました。しかしあくまでもこれは私自身の学習用のメモであることをお断りしておきたいと思います)

生成AIは、私たちのキャリアにどんな影響を与えるか?

生成AI技術の進歩は驚異的です。今まで人間にしかできないと思われてきた仕事が自動化されています。会計、マーケティング、ウェブデザインも今では自動化されています。今まで機械と人は一緒に仕事してきましたが、今では機械が知的な作業を代行するようになりました。

私たちのキャリアの道は方向を変えうる

今存在すらしない職業にも就く可能性があります。よってキャリアの道は直線的にはなりません。技術を最大限活用しつつ、働き方をどう変えていくかを考えなくてはなりません。

生成AIの影響を歴史的文脈の中で理解し、AIを単体で考えるのではなく、技術の発展の歴史の一部として考えます。今、人間のようなAIを目にしています。だからこそ同時に誰もが不安に思うのです。

200年前に人類が経験した産業革命。そこで機械は人間の代わりに力仕事を代行するようになりました。けれどもAIの出現は、頭脳労働の代行を意味します。頭脳労働を代行出来る点に、私たちは驚いています。

日本や英国のような国では、多くの価値が頭脳労働(例えば、会計・法律・教職・執筆・プログラミング)によって創造されています。

AIは多くの人のパフォーマンスを向上させます。より速く、より多くの情報に目を通し、より正確です。もしこうした能力だけが人を優秀と評価するならば、こうした仕事は今や簡単に機械に任せられるので「優秀である」ということの意味・定義を変えるはずです。

◎AIの台頭によって既に影響を受けている職業や仕事は?

生成AIの誕生が発表されると、テック企業は自動化されるタスクを考えました。まずなくなるタスクがある分野として、マーケティング、採用業務、ウェブデザイン、それからプログラミングがあげられます。こうした分野のタスクはいずれ消滅していきます。人材会社は苦戦します。マーケティング会社はAIを導入して再構成します。

企業弁護士であるリンダさんのパートナーによれば、法律事務所で契約書作成のためにAIに投資したが、弁護士の数は減らず、契約を求める需要がむしろ増えました。重要なのはそこです。

リンダさんの息子は放射線科医です。その彼が放射線科医になりたいと言った15年前には、放射線科医の仕事は医療現場で最初にAIに奪われるとされていました。しかし彼は近くコンサルタント放射線医になるそうです。英国では放射線医は減ったどころか増えました。なぜか?MRI、X線、画像下治療を求める人が増えているからです。

生成AIの影響を予測するのは難しいことです。AIは低スキルな仕事を奪います。すると高スキルな仕事が求められるようになります。

10年前に、ある研究が発表されました。現存する仕事の何パーセントがAIに奪われるか?それを割り出しましたが、10年後の今、その予測はあたりませんでした。

予測を誤った理由は、分析の単位が「仕事」だったからです。単位は「仕事」ではなく「タスク」であるべきです。1つの仕事には30のタスクがあるかもしれません。タスクの一部はAIが代行しても、他は残ります。だから生成AIが普及しても、大規模な解雇には至らず、仕事内容が変わったのです。これがAI関連の予測をする際の問題点です。

むしろ分からないのは、この先、創造される仕事です。

◎この先、創造される仕事について

ロンドン・ビジネス・スクールで、学生たちにこう問いかけます。日本の地方や英国の地方に住んでいたとして、初めて自動車がやってくるのを見たとします。

まずこう問います。自動車が普及したら、馬の世話をする人たちはどうなるか?馬が移動手段の時代です。馬のエサを作る人はどうなるか?馬の世話をする人は何千人もいます。

でもその時知りえなかったことは、車が普及すれば道路が必要となることです。新しい産業が生まれます。それが分からない。移動が簡単になり旅行産業が誕生しました。石油産業も生まれ、国際政治の力学を変えました。サウジアラビアやイランなどが大変裕福になりました。予想できないことが今起きています。仕事が奪われAIの負の側面が見えていますが、難しいのは新たな仕事が生まれるのを想像することです。

最も重要なのは好奇心や問いかけをすることです。教育のあり方を変えなければなりません。このことが欧州では議論になっています。企業側で今起きていることの1つは、企業がこう言い始めていることです。「大学の学位を高く評価することはない」と。「学校を卒業し多くの経験をして、見習いとして働いたりしていれば、それを学歴と同等に重視する可能性がある」と。

何が起きているかというと、スキルベースのシステムができつつあるのです。企業は求職者に、東大やオックスフォードの卒業証書を求める代わりに、持っているスキルや学んだことを聞くようになっています。何が得意なのか?と。この変化は教育システムに大きな課題を突きつけるでしょう。

◎日本の特質は?

日本には大きな強みになるものがあります。まず規律を守れるところ。第二に、熟達を重んじるところ。熟達とは何かに熟練することです。 

もうすぐ書き終える本の中で「熟達」を最も重要な人の資質としました。何かを深く学ぶ能力。深く理解して、スキルを磨くこと。日本は、それを実行するうえで極めて有利な位置にいます。

大事な問いかけは、何に熟達するか?です。自分は何が得意になりたいのか?

私は日本を楽観視しています。日本が持っているエンジンを動かせれば、勤勉で、規律を重んじ、謙虚であれば、素晴らしいスタートが切れるはずです。創造性、熟達。職人芸を目指すうえで、未来にとって要となる要素なのです。

◎キャリアの中盤や終盤にいる人たちに、生成AIはどう影響するか?  

30代40代50代の人こそが、現状を不安に感じています。

誰かの仕事が自動化されたとき、歴史的に何が起きたのかについては、多くの研究がなされています。それによると仕事やタスクが自動化された場合、3つの選択肢があります。

1)職場に留まってスキルを上げる。

例えば現金出納係なら、顧客関係の管理者になる勉強をする。職は変えないけれど、スキルアップします。

2)リスキリングする。

全く別の職に就く。例えば英国北部の労働者たちは、工場が自動化され、コールセンターで電話オペレーターとして働くようになりました。工員から電話オペレーターに、完全にスキルを変えました。

3)悪い道。選ぶべきではない道はスキルを下げること。

例えば現金出納係や工員から、カフェで珈琲を淹れる人やウーバードライバーになること。ギグワーカーになること。ギグワークの問題点はとても不安定で、健康保険や年金にも加入できないことです。

従って人生を考えるにあたって、30代40代の人は、次のことを問うべきでしょう。

自分は今の仕事でスキルアップできるか?

または新しいスキルを習得できるか?

それともどちらもせずに沈んでいくのか?

どの選択肢を取るかは、次の3つの要素次第です。

1)自分自身

心理学者はこれを「個人能動性」と呼びます。自分のために行動できるかを問うてみます。

2)勤め先企業

新しいスキルを学ぶ支援を企業がするかどうかです。

3)行政 

例えばドイツでは基金を用意し、国民がこうした転機を切り抜けられるように支援しています。

このことは、個人が考えると同時に企業や国も考える必要があります。

現在、何かを学ぶ方法は本当にたくさんあります。大人も学習し知識を増やせます。学校教育は一手段にすぎません。

◎リンダ・グラットンさん次回作は?

8月からフランスにいて本を執筆されているとのこと。彼女にとってロンドンを離れて田舎にいることは、創造性を発揮するための方法で、本を書けるのは、自分に余裕を与えているからとのことです。

良い仕事人生を築くうえで大事なことの1つは、落ち着くこと。例えば散歩。田舎を散歩する。自分のための場所と頭のなかに空間を見つけて、そこでスローダウンする。

彼女にとって活力の源は多くの場合、好奇心。ときめく場所にいることも重要。世界に出て、世の中を見て、問題や課題を見る。問いかけをし、創造的なアイデアを思いつく。それが人生と人の幸福に違いを生む。

自分の人生では、冒険こそが多くの洞察を与えてくれたそうです。

3年前から執筆している次回作。それは自分の人生を振り返りつつ、どうすれば良い仕事人生を送れるか?がテーマだそうです。

1つは「好奇心」。新しい問いかけをすること。2つ目は「冒険すること」。新しい場所に行き、新しい出会いをする。見たことがないものを見ることをリンダさんはあげています。

対談中にもリンダさんが「好奇心」を発揮するときの表情が印象的でした。

次回作をはやく読みたいものです。

どうすれば良い仕事人生を送れるか?」。それは全世代にとって考えるべき、行動すべきテーマですから。

関連記事:100年時代の人生戦略:マルチステージの人生 3つの生き方・働き方

(最後に、昨年2023年に行われたシンポジウムのダイジェスト動画を参考としてUPしておきます)

【ダイジェスト版(14分)】シンポジウム「人生100年時代における幸福感を考える」

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この記事を書いた人

大前 毅のアバター 大前 毅 国家資格キャリアコンサルタント
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