NHKのクローズアップ現代で「ネガティブ・ケイパビリティ」について取り上げる回がありました。番組のタイトルは「迷って悩んでいいんです! 注目される“モヤモヤする力”」。そのタイトルをみてすぐわかりました。「ネガティブ・ケイパビリティ」のことだな、と。
2017年に作家で精神科医の帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)氏が著した『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』を読んでいました。それから6年経って、NHKのこのクローズアップ現代で、この概念に再会したわけです。番組の中で、帚木蓬生氏も出演し、この『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』を解説されていました。
ここでは、あまり聞きなれない「ネガティブ・ケイパビリティ」の持つチカラについて、この番組のさわりをお話しします。日常のさまざまな局面で答えが出ないことに対して苦しんでおられる方々にヒントとなればと考えたからです。
番組は次のような構成で進行しました。
現代の効率性を重視するタイパ(タイムパフォーマンス)や生成AIとは真逆の概念という切り口で、「ネガティブ・ケイパビリティ」を紹介します。“モヤモヤする力”の大切さにフォーカスをあてていきます。
新規事業のワークショップの光景や教育・医療・法律の分野で幅広く取り入れられているそうで、これには私も驚きました。
村上春樹さんとイチローさんの言葉も引用されました。村上春樹さんは「即座に答えを出すというよりも時間をかけて深く考察することが求められている」、イチローさんは「結果が出ない時どういう自分でいられるかが一番大事(インタビューより)」とフリップで紹介されました。
もっとも、桑子真帆アナが「今夜は倍速視聴禁止です」というのには笑ってしまいました。私は1.5倍速派なので。
番組での「ネガティブ・ケイパビリティ」の定義は、「すぐに結論を出さずモヤモヤし続ける」でした。
“雑談ヨガ”を実践しているという女性ヨガインストラクターは、3年前まで外資系企業の管理職をされていて効率性を追求されてきた方です。効率性を追求しても上手くいかないと感じていた時に、この帚木蓬生氏の『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』に出会ったそうです。
そこから“モヤモヤノート”をはじめられたというエピソードが紹介されました。
生まれつき聴覚に障害がある方への取材では、“モヤモヤする力”が生きる希望になったことが語られました。ありのままでいいんだという言葉が印象的でした。
海外では、“モヤモヤする力”を発揮できる人は、好奇心と共感力に優れているとの研究成果が出ているとのことです。日本の大学での研究では“モヤモヤする力”を発揮できる人は「協働の感覚」や「自分を変えていく(柔軟性)」力が備わっていることがみえてきたとのことです。
先の見えない時代の今、なかなか思うようにいかない人々が多い中で、すぐに答えをださないで“モヤモヤする”ことの意味を肯定的にみる「ネガティブ・ケイパビリティ」。
翻訳家の枝廣淳子さんの「答えを急がない勇気」という言葉が紹介されました。
九州大学の高田仁教授は、午前中はモヤモヤする時間(すぐに答えの出ない課題を考える時間)を尊重し、午後はテキパキする時間(問題解決タイム:結論を出せる仕事)を中心にするという、一日の中でふたつの時間をバランスをとっておられるそうです。私にとってこれは参考になりました。
「論を急がず5分モヤモヤしてみる」という考え方も紹介されました。これならばすぐにでも応用できそうですね。
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数年前に読んだ『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』には、イエローのラインマーカーでところどころアンダーラインをひいたところがありました。
このアンダーラインをひいたのは、数年前の私です。その時にはわからなかったことが、今ではわかることがいろいろありました。
「論理を離れた、どのようにも決められない、宙ぶらりんの状態を回避せず、耐え抜く能力」(p9:引用)
「ネガティブ・ケイパビリティの概念を知っているのと知らないのでは、人生の生きやすさが天と地ほどにも違ってきます」(p12:引用)
私たちは、新コロナ禍の三年間を生き延びて、今はいつ終わるともしれないウクライナ侵攻の中を生きています。そのような時代にあって、かってはわからなかったことがわかるようになっていくというのはいい意味で人間としての成長かもしれません。
私はキャリアカウンセリングの中で、クライエントに対する好意的関心と共感に支えられてきました。それが「ネガティブ・ケイパビリティ」“モヤモヤする力”であったことを改めて再確認しました。この番組がきっかけとなって、そのようなことに気づくことができました。
初めて読んでから6年経過してわかることもあるのですね。
「ネガティブ・ケイパビリティ」。
今度は自分の生活の中で、この概念を使ってみようと思います。