(この記事はアラン・ドロンの逝去の報を受けて過ごしたこの一週間に、不思議な誘いで、既に亡くなっていた作曲家ヴァンゲリスの「人生の仕事」にたどりついたことを綴ったものです。)
フランスの俳優、アラン・ドロンの訃報に接した時、それを静かに受け止める自分がいる一方で、アラン・ドロンの出演映画をふりかえって思いにふける自分がいました。アラン・ドロンとその時代を回顧する一週間でした。アラン・ドロンほどの美貌の男優を私は同時代では知りません。男優の美しさを語る上で私たちよりずっと上の世代では、ジェラール・フィリップが挙げられます。しかし私はその世代に属さず、彼の時代を共に生きてはいませんでした。私が大人の世界へと成長する過程で、アラン・ドロンこそが男性の美貌のアイコンでした。
アラン・ドロンの出演作「太陽がいっぱい」(1960)、「太陽はひとりぼっち」(1962)、「サムライ」(1967)・・・そしてそうでした、「冒険者たち」(1967)。彼の映画にはその美しいヒロイン、マリー・ラフォレが、モニカ・ヴィッティが、ナタリー・ドロンが、そしてジョアンナ・シムカスがいました。
特に「冒険者たち」。
公開されてから十年位経過して、遅れてきた映画青年を魅了する何かがこの映画にはありました。世界の名だたる偉大な監督が既にアラン・ドロンを起用していました。そんな時代の空気を私は知っています。
手元にある「冒険者たち」のDVDを観ていて、アラン・ドロンは彼の沢山の映画で、死ぬ役を演じてきたことに気づきました。映画の中で、美しいアラン・ドロンには常に翳りある雰囲気があり、それが彼の魅力でもありました。
映画「冒険者たち」を今の30代の人々はほとんど知りません。時代と共に忘れ去られていくものだと知った時、正直驚きました。しかしそれは当然のことなのでしょう。私がジェラール・フィリップを同時代者として知らないのと同じです。人は世代と共に人生を歩んでいくのですから。「アラン・ドロンなんて知らないよ」。それが当然なのでしょう。
彼を知る自分のできること。それはアラン・ドロンという類稀なる美貌の男優の仕事を、彼の出演した映画を観ながら、追悼することです。そして少しは、彼を知らない若い世代にも彼を知ってほしい。そのように思います。
映画「冒険者たち」のDVDのパッケージには、次の言葉が記されていました。
「映画史上、日本人が最も愛したフランス映画!」。公開40周年記念のHD完全リマスター版DVDのパッケージです。
この映画は青春のレクイエムでした。初々しい女優、ジョアンナ・シムカスが演じるレティシア。そのレティシアという名、そしてジョアンナという名を、この「冒険者たち」を観たフランスの多くのファンが後に、我が子に命名したそうです。そんな逸話を、ジョアンナ・シムカス本人が2006年のカンヌ映画祭でうれしそうに語るインタビュー映像を観ました。
「人生の仕事」という言葉が、その時私の脳裏に浮かびました。
時にその仕事を終えて何十年も経過してから、「人生の仕事」はわかるものかもしれません。記憶の中で「仕事」は「人生の仕事」へと昇華していくのかもしれません。
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そのようなことを考えながらYouTubeを観ていていました。
La Mer(海)という単語が、アラン・ドロンの「冒険者たち」と、全く異なる時代の全く異なる小さな映像作品を結びつけてくれたのだと思います。
それは出会いでした。実写とアニメと美しい音楽で綴られた数分間の映像作品です。
「La Petite Fille De La Mer」。
フランス語で「海辺の少女」。あるいは「海からの少女」という意味でしょうか。
とても心あたたまるアニメです。
何度も観返しました。そして解説文を生成AIで翻訳してみました。
Creo en cierta combinación de esperanza y luz que dulcifica los peores destinos. Creo que esta vida no lo es todo; ni el principio ni el fin. Creo mientras tiemblo; confío mientras lloro. lo dijo :
Charlotte Brontë
最悪の運命をも和らげる希望と光の組み合わせが、確かに存在すると私は信じている。この人生がすべてではないと信じている。始まりでも終わりでもない。震えながらも信じ、涙を流しながらも信頼する。(シャーロット・ブロンテ)
その下にヴァンゲリスの名前を見出しました。
次のように紹介されていました。
エヴァンゲロス・オディッセアス・パパサナシュー、通称ヴァンゲリス(1943年3月29日、ヴォロス生まれ)は、ギリシャ出身の電子音楽、オーケストラ、アンビエント、ニューエイジ、プログレッシブロックのキーボード奏者、作曲家です。
彼の代表作には、『炎のランナー』(1981年アカデミー作曲賞受賞)、『ブレードランナー』(1982年)、『1492 コロンブス』(1992年)などの映画音楽があります。
(中略)
彼は画家としても活動しており、いくつかの国際的な展覧会を開催しています。様々な文化的プロジェクトへの貢献により、彼は特に母国ギリシャにおいて、メディアで大きな影響力を持つ人物としての地位を確立しています。
彼の功績を称え、国際天文学連合は小惑星(6354) ヴァンゲリスに、彼の名前をつけました。
この動画は7年前に作成したものです。ヴァンゲリスは2022年5月17日にパリで亡くなりました。
ご冥福をお祈りします。
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そうなのか。あの大作曲家ヴァンゲリスは、人生の最終段階で、このように愛らしい作品をつくっていたとは・・・。
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このように愛らしい小品をつくっていたヴァンゲリスは、既にこの世の人ではありません。
しかしこのような作品という形をとって、今も多くの人々の心をあたためてくれていたのです。
400万回再生のこの作品に出会えたのは、アラン・ドロンの映画「冒険者たち」のおかげです。アラン・ドロンが、私にこのヴァンゲリスの「人生の仕事」に出会わせてくれた・・・。そう表現したいところです。
「人生の仕事」というのは、その人がこの世界から旅立っても、この世界を明るく照らしてくれるものなのかもしれません。
ここに、謹んでご冥福をお祈りいたします。アラン・ドロンと、そしてヴァンゲリスへの私なりの哀悼の意を込めて、この記事をしるしました。
(アラン・ドロンの「冒険者たち」で流れる「海底への葬列」の旋律に、哀悼の意が昇華されますように。)