2050年の世界。ジャック・アタリ「世界の取扱説明書」にある脅威

世界の取扱説明書」というタイトルにとても惹きつけられました。この世界にも「取説」があればいいのに・・・そう私が思っていた矢先だったからでしょうか。

ジャック・アタリ氏は現代に影響を与えうる知の巨人として、80歳になる今も活躍を続けている思想家の一人です。あまり先入観もなく彼の著作を読み終えることができました。

2024年8月2日(金)から始まった日経平均の大幅下落と乱高下。8月8日(木)に起きた日向灘の地震。9日(金)の夜に起きた神奈川県西部の地震。この一週間に、私はアタリ氏の「世界の取扱説明書」を読み進めました。そして読み終えて、私にとっては、この世界をどのように取り扱ったらいいのか?を考えるヒントを得ることができました。

2050年の世界は、どうなっているのだろうか」(本書2p.「親愛なる日本の読者へ」)。そこから始まるこの本で、アタリ氏は30万年の歴史を超スピードで辿っていきます。地球上の覇権の移行が鳥瞰できます。まるでタイム・ラプスで撮影された動画をみるかのようにハイスピードで文明の栄枯盛衰を観ることができます。

歴史上永遠に続く文明はないことは自明なのに、自分の生きるこの世界がこれから(そしてもうすでに)直面している脅威に関して、私は少し無自覚であったように思いました。アタリ氏がデータに基づいて説得力をもって語る事象の数々は、読む方としては正直辛い面が多々あります。しかし私が最後まで読み終えることができたのは、ジャック・アタリ氏の主張の真意を理解していたからだと思います。

この世界を良き方向へと急旋回させることができるのは今しかなく、私たちがそれを果たさなくてはならないという使命感です。その信念のもとに論を進めていることがわかるからでした。

世界の取扱説明書」は、同時に「私たちの取扱説明書」を要求してくるのです。

無知であってはならない。特に歴史から学ばなくてはならない。そのことを行間から何度も何度も語りかけられた気がします。一方で、「誰もが、他者を思いやる気持ちを持つべきだ」(256p.)という声も聞こえてきます。

2050年。それは2024年の現在からわずか26年後の未来・・・。

スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」(1968)を20世紀のうちに観た私は、21世紀に入ってから再びIMAXシアターに観に行きました。映画の中で人工知能のHALは人間に対し反乱を起こします。それがすでにSFではなく現実に起こりうる世界になりました。20世紀にはSF映画の超大作であった同じ映画が、21世紀には現代の黙示録になるのです。

人間の知の結晶は、時として時空を超えて存在し続けます。ジャック・アタリ氏の「世界の取扱説明書」はそんな一冊になるかもしれません。

今を生きる私たちにとっては、2050年(26年後)は現在とほぼ地続きのそこにある未来です。「今そこにある脅威」に自覚的であるべきです。

2050年ごろの三つの致命的な脅威として、アタリ氏は次のように整理します。

第一の脅威・・・気候。

第二の脅威・・・超紛争。

第三の脅威・・・人工化。

ここでは第一の脅威として挙げられている「気候」についてふれたいと思います。気象変動のことです。単刀直入にいえば、このまま無為無策でこれを先送りすれば、人類の生存が危ぶまれることが語られます。

このまま大気中の二酸化炭素の濃度が増えていけば2050年には地球の表面温度は4℃以上上昇するそうです。熱波の発生頻度が増え、降水量が倍増し、氷河が溶け、海水温は上昇します。海面の上昇幅は、太平洋で20cm、大西洋で35cm、ベンガル湾で45cmとなる予測が記されています。このままいけば。このまま何もしなければ・・・。

連日猛暑日を記録し続ける日本にあって、ここに記されていることは身に迫った脅威に感じられます。なにもしないのか。なにもしないでいいのか。何が出来るのか。そのようなことを考えました。

しかし私も含めて、人間は心のどこかで「なんとかなるさ」と考えるかもしれません。

そのように考えてみると、「世界の取扱説明書」を前に、私たちは「私たちの取扱説明書」を書き上げなくてはならないのでしょう。先送りするという人間の脆弱性を、いかにして克服していくか?それに基づいて、先送りせずに行動しなくてはならないのでしょう。

火がついて初めて慌てることから、火がつく前に備えるということを、私たち人間は出来るでしょうか?ジャック・アタリ氏はそれは出来ると考えています。80歳の彼は私たちに決断と行動を迫っています。

氷山を前にして「このままいけば船は衝突する」と予測できたとします。あなたという船長は舵をきって危険回避するでしょうか?あるいは予測すらできず、従って氷山の存在に気づかず、そのまま同じ航路を進んでいくでしょうか?

予測するためにはこの世界を理解しなくてはなりません。世界を理解するためには歴史から多くを学ばなくてはなりません。そして人間の持つ先送りするという脆弱性については、私たちは何らかの対策を講じなくてはなりません。

このアタリ氏の「世界の取扱説明書」は、そのために書かれているようにも思います。

2050年。それは、人類における転機の年ではありません。今ここにある転機の結末が2050年ごろに現れるのです。それが幸福な結末であると願うとともに、未来に続いていく希望のスタートであってほしいものです。

アタリ氏は云います。

われわれ自身が変わらなければ、何も変わらないのだ」(246p.)と。

われわれ自身が良き世界を目指して行動するとき。それが今なのです。

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この記事を書いた人

大前 毅のアバター 大前 毅 国家資格キャリアコンサルタント
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